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カテゴリー:その他
2023/09/08
人的資本開示について
今回は、「人的資本開示」について、皆さんとご一緒に考えてみたいと思います。
人的資本開示とは
近年、人的資本情報の開示に対する動きが加速しています。
「人的資本」とは、従業員個人が持つ資質(倫理観、協調性、リーダーシップ、モチベーションなど)や能力(知識、スキルなど)や経験などを、企業の付加価値を生み出す資本とみなす経済学用語です。
また、企業が人的資本へ投資することは、従業員の健康状態の向上、幸福感の向上など、多くの非経済的利益をもたらし、最終的には経済的利益にも繋がると考えられています。
経済産業省は「人的資本経営」について、「人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義しています。
そして、「人的資本情報」とは、人的資本への投資や取り組みに関する情報のことです。
具体的な開示事項について、2022年8月に政府が発表した「人的資本可視化指針」では、「開示が望ましい項目」として、「リーダーシップ」、「育成」、「スキル/経験」、「ダイバーシティ」、「賃金の公平性」などの19領域が示されました。
そして、「人的資本開示」すなわち「人的資本の情報開示」とは、それらの情報を財務情報と同様に社内外に向けて公表することです。
具体的には、有価証券報告書に人的資本の内容を記載し、ステークホルダーに公開する一連の流れです。
2018年には、ISO30414という人的資本情報開示のための国際的なガイドラインがISO(国際標準化機構)により発表されました。
こちらのガイドラインには、人的資本情報をどのように開示すべきか、という指針が示されており、以降、欧米企業を中心に世界中でISO30414に沿った情報開示が進んでいます。
なぜ人的資本情報開示への関心が高まっているのか
表題の背景として、投資家からの関心の高まりが主に挙げられます。
従来、投資家は企業の財務情報に基づき投資先の選定を行うことが主流でしたが、近年は人的資本のような無形資産を評価する傾向が高まっています。
2008年のリーマンショックを機に、財務情報のみでは中長期的な企業価値を評価しづらいとの理由から、人的資本が重要視され情報開示が求められるようになりました。
近年では、人的資本投資への取り組みの推進が、企業の成長力を向上させるとも考えられるようになりました。
また、ESG投資への関心の高まりもその理由として挙げられます。
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3視点から投資先企業を選定する方法です。人的資本は、「社会(Social)」に該当します。
このように、人的資本を含む「無形資産」への投資に関心が高まっていることが、人的資本の情報開示が求められる背景にはあります。
2022年5月に公表された「人材版伊藤レポート2.0」(※)では、「企業がこれからもさまざまな環境変化に対応しながら持続的に企業価値を向上していくには、⼈的資本を活用した取り組みで他社との差別化を実現する必要がある」と述べられています。
※会計学者、伊藤邦雄氏が座長を務める「人的資本経営の実現に向けた検討会」(経済産業省)がとりまとめた報告書
理念に沿った基盤づくり
企業が激しく変化する外部環境に対応し、持続的に企業価値を向上していくためには、各社が理念を起点とし、経営戦略や人材戦略を結びつけて、経営を考えることが大切です。
具体的には、経営理念に沿う形で、個々の役割・権限を明確にする、研修・教育体制・人員配置など環境の整備をすることなどです。
今回のテーマである人的資本開示は、組織の透明性と信頼性を高め、持続可能な発展を追求していることを社内外に示すために重要な手段となります。
そのためには、人的資本を可視化・開示する以前に、経営理念を起点とした基盤づくりが重要だと考えます。
以下、パーソル総合研究所のホームページに記載のある、「人材戦略の構築実践と人的資本の可視化・開示との関係性」について、樹木に例えた表現が、大変分かりやすかったので、図も併せて共有させて頂きます(以下、抜粋)。
また、上図の「根」の箇所の「企業文化」は、経営理念が起点となり、醸成されたものだと考えます。
中小企業と人的資本開示
人的資本開示に関して、現時点では、大手企業が対象とされていますが(※)、中小企業にとっても可視化や開示について重要性を感じます。
※金融商品取引法第24条の「有価証券を発行している企業」のうち、主に大手企業約4,000社が対象です。
中小企業においても、いきなり情報開示や企業価値向上を考えるのではなく、以下、「人的資本可視化指針」に記載のある図のように、①〜⑥のような段階を経て少しずつ企業価値の向上までイメージしていく形はいかがでしょうか。
まずは、①にあるように、自社の人的資本、人的戦略を整理してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
また、開示の範囲について、必ずしも外部への開示と捉えなくても良いと思います。
例えば、人的資本情報で言えば、離職率、休職率、有給取得率、育児休業取得率などは、社外へ公開することは躊躇される場合でも、社内での開示をご検討されてみてはいかがでしょうか。
社内開示により、透明性が担保されれば、社員は自律的・自発的な判断ができ、組織に対するエンゲージメントを高めることに繋がります。
他にも、1on1実施率、研修受講率、研修受講時間など、人的資本に関する独自の開示情報項目を設置してはいかがでしょうか。
今回は、近年の人的資本開示の潮流やその捉え方について、ご一緒に考察させて頂きました。
株式会社JEAN
河上 朗